I-media 2004.10 No.248(株)NHK情報ネットワーク 50.視点&思点


中国でのファッション体験
めざすは“学生ブランド”
~台風さなかの「一衣帯水」~
ファッションデザイナー
東京田中短期大学客員教授 稲葉みちよ
中国の杭州にある紹興市で開かれた『国際紡績交易大会』のメインイベントとして、9月10日に“日本の学生によるファッションショー”が開かれました。「紹興酒」の産地として知られる紹興市は、絹織物でも中国屈指の産地なのです。
ショーのメンバーは、私が客員教授を務めさせて頂いている田中千代学園・東京田中短期大学の、学生21人と先生方19人で、“海によって隔てられているが、大変近い関係にある”ことを表した『一衣帯水』がテーマでした。一衣帯水は、日中両国の首脳たちが公式に挨拶するときによく使われる親近感の代名詞のような言葉です。しかし、中国側の若いスタッフ達には理解していない人たちが多かったので、冗談交じりに「台風のように勢いのあるイメージのショーです」と伝えたのが大間違いだったようで、本番はなんと台風に直撃されて、まさに一衣帯水。日中ともに仲良く濡れてしまいました。
とはいうものの、ショーの時間だけは雨が上がったのですから、ミラクルとしか言い様がありませんでした。
準備から帰国までの慌しさを“通り雨”のように、ざっと報告させていただきます。
服作りの最初はまずデザイン画を描くことなので、4月からその作業に入り、100枚以上のデザイン画の中から、約70枚を選び出して、パターン製作に入りました。しかし、紹興市から送ってくるはずの生地がなかなか届かず、7月半ばにずれ込んでしまいました。この間、学生達も不安になって「本当に中国でショーを開けるのか?」と不信感まで抱くようになり、先生方の顔色にも焦りが漂い始めました。
私も中国から送られてくる生地の種類や用尺が不安になってきましたので、河合学長と繋がりをもつ旭化成せんい株式会社に今回の件をプレゼンテーションして、ラムースとベンベルグを学生達のデザインに合わせて、それぞれの必要メーター数を協賛して頂きました。これらの高級素材を手にした学生達は、“製作意欲再び!”の状態までテンションが上ったのは言うまでもありません。さらに、三菱レイヨン株式会社からも数種類の生地を頂戴して、高級生地を思う存分使うことが出来ました。
個人的にはなかなか手に入らないような高級生地を、日本国内の生地メーカーがバックアップしてくれたことは、それまでともすると学園祭のノリだった学生達を「国際的なファッションショーを本当に開くのだ」という心構えに改めさせてくれました。
一方、中国のスタッフ達とは打ち合わせ内容が二転三転して、最初はいちいちイライラしていましたが、そのうちに「これが中国人気質ね!」と、なんだか愛おしくなってくるほどでした(笑)。
ともかく、中国における初の学生ファッションショーは大成功でした。帰りの飛行機のなかで、感想を学生達に書いてもらいましたので、いくつか紹介させていただきます。疲れ果てた状態での感想文は、ナマのまま本音が詰まっているように思います。
●人間が大きくなった気がしました。言葉が通じないこと、文化の違いや考え方などでいろいろと大変でした。でも意外に片言の英語や、ボディーランゲージなどが通じて友達が出来ました。ファッションは世界の共通語だと思いました。
●6月頃からパターンをおこし、夏休みも毎日学校へ行って作業をしました。1着作るのに、とても時間がかかりましたが、中国行きに選ばれ、モデルの練習やトップのサポーターもしました。当日はあいにくの雨でしたが、中国の方と力を合わせて成功させることができたので、本当に良かったです。中国とはまた良いショーを仕立てたいです。
●振り返っても一日一日何をやっていたのか良く覚えていないほど、準備から本番までバタバタしていました。そして本番が終わってからやっと、今回のことがものすごく大きなプロジェクトだったということに気がつきました。トップをやったことで、今まで経験したことのない問題に沢山ぶつかり、夏休みもない最後の学生生活に悩んだりしたけど、全員でフィナーレに出たあと、「これで良かった」と満足感がこみあげてきました。ショーは本当に最後まで問題だらけで、モデルは前日までハッキリ決まらないし、テントのフィッティングルームは客席から丸見えだし・・・。でもこれが中国なんだなっていうのを直接感じることが出来て今になればすべて、いい思い出です。テーマソングは時の流れに身をまかせ・・・みんなで身をまかせちゃいました。大雨だったのに、ショーの26分間は雨がやんだのは、まさに奇跡。ライトアップがキレイで夢のようなステージでした。
●打ち合わせ不足や段取りが悪かったりして、うまくいかないことが多かった。でも、ショーを成功させることを目標にして、本番は皆一つにまとまったと思います。ショーの観客も多かったし、次の日の新聞にも載って嬉しかったです。
●雨がみんなの作業の邪魔をしても、雨の存在を忘れながら、各自の仕事をこなしてゆく仲間がとてもカッコ良かった。中国の人に私の作った服を着てもらったが、気に入ってもらえたのか『脱いで下さい』と言われるまで着ていてくれた。最後に中国のスタッフと向かいあって物々交換をした。私はうちの学校の資料に私の名前を書き、相手にはもらった扇子の箱の裏に名前を書いてもらった。
●ショーをやらなかったらつながりが持てなかったような人たちと仲良くなれた事、プロの方々と仕事が出来たことで、ショーの組み立て方など体験できたことが最大の収穫です。
●辛い時期はもうやめたい!と思ったけど、ショーが終わった後の感動は最高でやみつきになりそうです。
●奇跡が重なりショーは成功したと思います。それは天候だったり、人と人の繋がりだったり・・・。5日間とても楽しく、とても早くすぎました。文化や感性、価値観、食文化など全てにとても影響される事が多く、良い経験になりました。中国ショーに関わった全ての人に感謝したいです。
紹興市でのファッションショーは、混乱の中にも、このように学生達との絆も深まり彼らに自信やプロへの心構えをつけさせるよい機会になったと嬉しく思っています。ですが、このまま「良かったね~。」で締めくくるのではなく、今回を第一弾として、学生でありながらビジネスにチャレンジしていく、『学生ブランド』の立ち上げを目指して行きたいと思っています。いまや就職難時代で、とくにアパレル業界は冷え切っています。だからこそ「産学官」のプロジェクトとして、ファッションビジネスの未来を、真剣に考えて頂きたいと願っています。有言実行! これはITの世界でも同じだと思いますが、まずチャレンジしてパイオニアにならなくては、面白い展開を望めないと信じています。
来年は第二弾。それまでに学生ブランドの『Fascinate Factory(魅了する工場)』を立ち上げようと、学生達や教員の皆さんと希望に燃えている毎日です。
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いなば・みちよ: バンタンデザイン研究所ファッションデザイン科卒業後、輸入テキスタイル会社でオートクチュール素材を学ぶ。93年MICHIYO INABAとして独立。『ワッツアップ』を設立。ヨコハマ元町にショールームショップ『ブテックAURA』を開き、東京コレクションを毎年発表している。


