読売新聞夕刊 3面 旬のファッション


ハマにパワー感じる / 稲葉みちよさんの創作空間

生まれ育った町が好きで、93年にデザイナーとして独立したとき迷わず本拠地を横浜・元町に決めた。 マンションの一室が、力強さとセクシーさを兼ね備えた服作りをする若手デザイナー、稲葉さんのアトリエだ。「さまざまな人が行き交う港町のオープンで、ちょっと怪しい雰囲気にパワーを感じるんです。 ハマトラは“いい子ちゃんルック”になっちゃたけど、トラッドって本来は不良の服だと思う。仕事をきっちりやって、人生を楽しむ、そんな不良の服を作りたい」

服のアイデアが浮かぶのは、もっぱらそんな“不良仲間”と遊んでいるときだ。横浜や東京のバーで友達と話しながら、浮かんだ作品のイメージを頭の中に書き留める。

「アトリエは頭から、アイデアを引っぱり出して作品にまとめるところシンプルな方がいい」というように、黒い机が部屋の真ん中にあるだけ。その上には愛用の色鉛筆と、友達からのメールをチェックするノートパソコンが載っている。「デジタルの情報機器は私にとって、ごはんを食べるのと同じように身近な必需品。だったら、もっとおしゃれに楽しみたい」と、今年4月のショーでは、携帯電話をブーツのようにひざ下に取り付ける牛革製の「レッグハイド」を発表。

天然素材にもこだわり「アナログとデジタルの融合」を作品のテーマに掲げる。顧客の注文を受けて家で服を作っていた母の影響で子供のころからデザイナーを志した。一時、ソフトウエアメーカー勤務など横道にそれたものの、今は「服作りが私にとっての一番の人とのコミニュケーション」と言う。アトリエの隣りに小さなショップがあり、土、日曜日は接客に立つ。「お客さんと話していて感性がつながるその瞬間が楽しい」。

作品と同じように、パワフルで人を元気にさせる姿にハマの姉御という言葉がよく似合う。

文・大森亜紀 写真・田村充